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おおくにあきこが愛してやまないとっておきの本。 その中のお気に入りのフレーズ。   お気に入りのスピリッツ。
切ない気持ちでrespectする、ことばの小宇宙。

 
 
『皆川明の旅のかけら』 
  a fragment of journey
 皆川明 著
 文化出版局 1575円
 
 
 

 かっこいいという言葉をこれほど連発したことはなかったな、そう思ったのが、先日の大阪出張での取材中のこと。ある月刊誌のために、かっこいい家具を作っているその人たちに、丸二日間かけてインタビューした。どこにもすかしたところがない家具。だけど、それがリビングにあるだけで、空気が変わる。不思議な力を持った家具なのだ。そのインタビュー中に、ふと、エピソードの中に出てきたのが、この本の著者である皆川さんだった。
 オリジナルのテキスタイルで洋服を作っている「mina perhonen」の皆川さん。数年前にこの本をみつけて、いい感じの本だなぁと買って、ぱらぱらと見て、本棚にしまいこんでいたことを思い出したのだった。
 改めてページを繰ってみた。
 旅の途中でみつけた小さなシャツの店。きれいな色に染められたシャツがディスプレイされ、奥のアトリエではひとりの女性がシャツを作っている。このときに見たこと、感じたことが彼の物語のはじまり。
そして、布の中にある世界は、この世界にないから、想像しないと見えてこない世界だからおもしろいのだと皆川さんは言う。“本当はない景色がどこかにあるのかもしれないという空想は、テキスタイル作りの足を軽やかに、前に押し進めてくれる気がする”と。
 大阪の家具作家の人たちといい、皆川さんといい、モノづくりをしている人は、独特のまっすぐなコトバを持っていて、心底うらやましいと思う。
 たとえば、皆川さんは、デザインするという仕事をこんなふうにも書いている。
“人が作るものは、自然界にある花や生き物と違って、人の意識が形に含まれていくところが一番の魅力なのではないだろうか。その意識の強さは、形の存在感につながっていて、僕たちはその形を通して、見えない意識を美しさとして感じ取るのだろう”
 人の意識の強さがモノの存在感につながる――それは、人が存在することへのステキな祝福だと思った。人の一生なんて、自然の営みの中のちっぽけな悪あがきみたいに感じることがある。でも、何もそんなにペシミスティックにならなくても、淡々と何かを成していけばよいのだと、皆川さんは伝えてくれている。
 食い違いや失敗、焦り。そんな日々だってある。だけどもしもそこに何か、ひとしずくの成果があるなら、それを大切にして次に進む。木の年輪のように積み重ねていく。一生かけても終わらない何かを淡々とやっていく。つっかえていたものがさらさらと温かな流れとなって、体の中を流れていった。

おおくにあきこ