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今、気になる本を紹介します。
 
 
『11の約束
  - えほん教育基本法』
 伊藤美好・池田香代子
 ほるぷ出版 840円
 
 
『11の約束』がもたらすもの
 
 これまで法律というものと無縁に過ごしてきた。知っている法律といえば、憲法9条、戦争放棄。この程度の知識。だから、“教育基本法「改正」問題”と言われても、ピンと来なかったし、大事なことなのだろうけど、誰かがきちんとやってくれる、そう思っていた。 教育システムそのものよりも、子どもをどんな環境に置くかということが大切だったのだ。何にでも興味を持つ子、音楽や絵画など芸術を理解し、豊かな人生を送ってほしいと思った。物語をたくさん読んで、引き出しのたくさんある子になって、逆境を乗り越えて欲しいとも思った。マンガや映画などのサブカルチャーの素養も大切にしたいと思っていた。なぜ? だってその方が幸せだから! 
けれど、そんな思いはすべて「11の約束」の上に成り立っていたのだと、この絵本を読むうちに気づいた。『世界がもし100人の村だったら』を日本に知らしめた池田香代子さんと『戦争のつくり方』の伊藤美好さんの共著によるこの絵本は、教育基本法をわかりやすい言葉で表現してくれている。読み比べてみるとわかるように、寸分たりとも読み替えず、主観をまったく交えない、公正な言葉づかいが見事だ。
『11の約束』つまり教育基本法には、どんな子どもも等しく学ぶことができることが約束されている。そして、学ぶ内容を、政府や官僚や政治家が支配しないことも約束している。でも、改正することで、根本的なこの約束にバイアスがかかっていく。飛び級などができる教育は一見、画期的だが、エリート以外の子、マイノリティーは取り残されていく。障害を持つ子どもが通う養護学校などは、公然と予算が減らされ、それに文句を言うこともできない条件が整ってしまう。郷土を愛するなどの教育目標が細かく織り込まれて、教師も親も監視されていく。
 法律って不思議だ。ちょっとした表現の違いで、可能なこと不可能なことが次々と生まれてくる。良識の範囲でカバーするなんてことはあり得ない。一度その施行が決まれば、法律を盾にして、一つのアブナイ方向へ向かって突き進むことも可能なのだ。
 結局、私たちが求めるものは何だろう。……考えてみるととてもシンプルなことなのだと思う。どんな命も尊厳あるものとして尊ばれる社会。そしてみんなで食べるごはんを、おいしいねと言ってにっこりできる毎日なのだ。仮に大義名分があったとしても、人が爆弾を抱えて自爆したりすることを選ばなくていい社会。いじめられて、自分がちっぽけで取るに足りない存在だなんて思わなくていい社会。そして学んだ中から、進む道を自らが選び取ることのできる社会でなければ。現在の日本でだって、差別に泣いている人たちはいる。そこに目を向けて、みんなで幸せになろうとすること、それが、社会として成熟していくこと。少しずつその目標に向かって歩みつつあるのかな、と思っていた矢先なのに……。
 もしも、万が一、このまま教育基本法が改正されたら、この本は、まったく意味のない本になってしまうのだろうか? いや、やはりきちんと残っていくべきだ。あ、やっぱりこっちがよかったなって思うためにも。間違ってしまったと思ったら、やり直すことだって大切だと思うから。
 
 
 
『あなたのそばで』
野中柊
文藝春秋 1400円
 
 
恋ってどんな味?
美味しい恋物語を召し上がれ
 
 お料理やスイーツとリンクさせた“美味しい恋愛小説”の一ジャンルを築いてきた野中柊。その真骨頂とも言える最新連作集「あなたのそばで」の中には、6つのおいしい恋が詰まっている。それは決して甘いだけじゃない。ときにすっぱくて、ときに苦い。いろんな味が複雑に絡み合って、恋はどんどんまろやかでおいしいものになっていく。
 たとえば、16歳で36歳のダーリンと結婚して幸せいっぱいの“菜奈ちゃん”が主人公の「オニオングラタンスープ」。父親よりも1歳年上の夫を持ってしまった女の子は、結婚記念日に、ママに教わったオニオングラタンスープを作る。これまでもお手伝いしてきたからそれだけは、おいしく作る自信がある。でも、その結婚記念日に、ママとパパが押しかけてきたから気分は複雑。娘から見ても魅力的なママは、同年代のダーリンの目にどんなふうに映っているのだろう……。おまけにダーリンは、仲良くなったパパに「あなたが菜奈の第一の恋人なら、僕は彼女の第二の恋人だ。でも、いつか第三の恋人が現れて、あなたが僕たちを祝福してくれたように、僕も彼女らのことを祝福してあげなくちゃいけない日が来るんじゃないかって……」なんて言うし。 菜奈は無償の愛の残酷さを思う。そして大人たちに嫉妬しながら、上記のベストフレーズに思い至るのだ。
 また、菜奈が通う高校の生物教師の雪絵先生と生徒会長・松本くんの恋が描かれているのが「光」。校内でも、人目のないところなら、かまわずキスをしてくる雪絵先生は、職業に似合わず、パンクなハートの持ち主。雪絵先生の家でとびきりの肉じゃがや出汁巻き卵に舌鼓を打ちながら、松本くんは、未来を思い、切なさに包まれるのだ。
 松本くんの妹の美也と付き合っているのは同級生の聡くん。その彼が2人暮らししているのは、今は亡きお母さんの恋人だった人。「さくら咲く」では、聡くんと美也の初々しい恋と同時に、亡くなった恋人の子どもを育てあげ、今なおその人を想う、そんな切ない恋も封じ込められている。年齢を超えて、生死も超えて人が人を想うことは、とても切ないけれど、複雑な味わいの極上のひと皿。しかもそれを味わえるのが、決して大げさなレストランではなくて、モダンなカフェ風なのだ。そんな野中柊の軽やかさも得点高し!